第94回:念願のアイルランド訪問(その1)
ビューリーズのアフタヌーン・ティー

 この夏休み、10年近く前からずっと行きたいと思っていたアイルランドのダブリンに行って来ました。アイルランドのことを何にも知らないのに、オスカー・ワイルド、詩人のイェイツ、『ガリヴァー・旅行記』のジョナサン・スウィフト、『ユリシーズ』のジェイムズ・ジョイスと名前だけはよく知っている文学者たちへの憧れがありました。自慢じゃないが、『ユリシーズ』は本を手に取り、開いてすぐ閉じました。オスカー・ワイルドは子どもの頃、童話『幸福の王子』等を、大人になってからは『サロメ』の挿絵を描いたビアズリーに魅せられ読みました。ビアズリーは大好きで展覧会があると必ず見に行っています。最近では今年5月に東京の三菱一号館で「ビアズリー展」を見ました。

 それはともかく、ダブリンに何故行きたかったかは、実はビューリーズ(Bewley's)というカフェに行きたいという動機があったのです。

 話は24年前、2001年8月に遡ります。ある夜、TVをつけるとEテレで数学者の藤原正彦さんがNHK人間講座『天才の栄光と挫折―数学者列伝』という連続講座で話していました。その回はすでに第4回目で「アイルランドの情熱~ウィリアム・ハミルトン~」の回でした。語りが上手なので面白く思い、すぐにテキストを入手しました。その中に藤原氏が取材でダブリンを訪れた時に行ったキャフェ「ビューリーズ」という一言がありました。ただそれだけでしたが印象深く、ダブリンに行くことがあったら是非行きたいと思ったのです。ウィリアム・ハミルトンが何者かはすぐ忘れました。その後、書塾の友人、由紀子さんが「紅茶の好きな堀川さんに」と下さったのが、奇しくもビューリーズのかわいい缶に入ったアイリッシュ・ブレックファストと、アイリッシュ・アフタヌーンという2種類の紅茶でした。それはそれはとてもおいしかったので、自分でも近鉄百貨店で見つけて購入したり、さらに輸入している会社を調べてホームページから直接購入したりしていました。

 8月8日早朝ダブリンに到着し、娘が13時のアフタヌーンティーを予約してくれました。午前中はアイルランド国立美術館に行きました。そこはフェルメールの「手紙を書く婦人と召使」が目玉になっていました。しかし、なんとニューヨークに貸出中とのこと。係員によると、五番街にある「フリック・コレクション」の改装中に「婦人と召使」を借り受け、こちらのと並んで展示していたのを、フリックがやっと新装オープンしたので、お礼にこちらのが向こうに行っているとの説明でした。他にはカラヴァッジョの「キリストの捕縛」が目を惹きました。

 ダブリンの目抜き通りグラフトン・ストリートにある、1927年創業のビューリーズ・カフェに入ると奥まった書斎のような部屋に通されました。お茶とコーヒーは何回でも何種類でもお変わり可とは太っ腹です。でもポットで出てきますからそんなに飲めません。3段トレイには小さなケーキ、スコーン、小さなサンドイッチとあり、接客してくださったお姉さんは終始ニコニコして、「お代わりは?」「他にご希望は?」と様子を見にきてくれました。ゆったりとくつろぎながら、夕食分まで堪能しました。
 ビューリーズにはハリー・クラーク作のステンドグラスが一面にあり見事でした。店頭で、家族の分も含めて、リーフティーやポット用の、持ち手の糸が付いてなく、1つずつ紙袋に入っていないティーバッグ等色々購入しました。英国で暮らした経験のあるパキスタン出身の嫁は「これが普通で日本の個包装のは珍しい。」と言いました。24年越しに念願かない、旅の目的を果たしました。

 次回はトリニティ・カレッジで『ケルズの書』を見たことと、ジャガイモ大飢饉について書きます。

【参考文献】

  • 藤原正彦「アイルランドの情熱~ウィリアム・ハミルトン~」『天才の栄光と挫折―数学者列伝』NHK人間講座2001.8~9月期 
  • 山下直子『絶景とファンタジーの島アイルランドへ』イカロス出版、2023
  • 山下直子『季節で綴るアイルランド211』イカロス出版、2025

【参考サイト】

2025.9.28 高25回 堀川佐江子記)