このホームページを通して会員相互の交流が一層深まり、活動の場が広がることを願います。
自粛期間は1年をはるかに超え、ほとんど自宅から徒歩圏内で生活している私の楽しみは、「本日のお茶のアテ」を探し、求めることです。ありがたいことに仙太郎山科店が徒歩10分の旧三条通沿いにあります。
仙太郎といえば、一番の目玉商品は大ぶりの「ぼた餅」でした。でした、というのは2年ほど前の令和元年6月末、丹羽大納言小豆の生産農家が大幅に減ったことに加え、5年にわたる不作が理由で、販売終了となり、翌7月1日より目方と価格を変え「おはぎ」の発売となったのです。ぼた餅は120g、240円(税別)のまさに牡丹の花のようなボリュームがありました。おはぎは80g、180円(同)となり、見た目もかわいらしくなりました。おはぎとぼた餅のことは、拙稿第27回:今西軒の「おはぎ」と糸井重里にも書きました。
「今月のおはぎ」の札に気がついたのは今年の1月でして、「白味噌」と書かれていました。白味噌あんに目のない私は、上に一粒、黒豆の蜜煮が乗った初体験の「白味噌おはぎ」に舌鼓を打ち、何度か賞味しました。2月は「黒胡麻おはぎ」、3月は「桜おはぎ」、4月は「うぐいすおはぎ」でした。
早速、仙太郎をひいきにしている若い友人の美代子さんに伝えました。彼女は、拙稿第42回:井伊直虎と彦根城、そして「殿様ぜんざい」のさわ泉(せん)へ和菓子ツアーに連れて行ってくださった方です。大丸京都店のすぐ近くにお住まいです。「仙太郎の今月のおはぎ、『玉露』は絶品です。お茶の味をどうしてこんなに濃厚に美味しく出せるのか。お勧めです。」とLINEしたところ、すぐに「聞いただけで美味しそうじゃないですか!買います!!」と返信が来て、1時間そこそこしたら、お皿に美しく盛り付けられた画像が送られて来ました。そして「食に関しては有言即実行の私です。お茶を上手に使ってますね。京都は抹茶味が多くて、よく抹茶との相性の悪さを思い知らされる事が多いのですが。こちらはおいしかったです。」と添えられていて、とてもうれしくなりました。「有言即実行」のノリが最高です。
先ほど、私は玉露あんのことを「まったりとした濃厚なお味」と書きました。「まったり」で思い出すのが、つい先頃4月3日に他界された田村正和さんです。私が京都に来て間もない、今から40年ほど前、テレビ番組で田村正和さんが、京都東山のどこかのお寺を訪れ、茶店で休憩する場面がありました。お抹茶を飲んだ後、彼は「こういうのを京都では、まったり、と言うんでしょうね」と言われたのです。多分、私が「まったり」という言葉を初めて実際耳にした時だと思います。いまだに自分では使ったことがありません。改めて岩波の『国語辞典』で調べてみましたら、「味わいにまろやかさ・こく・深みなどがある感じ。関西方言」とあり、もうひとつ『日本語大辞典』には「こくがあって口の中で味わいがゆっくり広がるさま」と出ていました。まさに田村正和さんは抹茶の味を正しく表現していたのです。
最近ではよく「ゆったりしている様子」に使われていますが、私には違和感があります。多くの人が使うと言葉の意味は変化するもので、実際、広辞苑第7版では「ゆっくりとくつろいでいるさま」も載っていました。でも京都で生まれた田村正和さんは本来の使い方をしていて、若い頃の彼の熱烈なファンであった私は、さすがと思いました。なんと彼は映画の街だった太秦の生まれだそうで、私も15年ほどその近くで暮らしましたから、今更ですが、なおいっそう親近感が湧きました。
(2021.6.1 高25回 堀川佐江子記)