第77回:突撃ニューヨーク(その1)とベーグル

 新型コロナウイルスが地球上に現れて早2年が過ぎました。私ごとで恐縮ですが、2年前の3月、娘が転勤でニューヨークに赴任しました。ちょうどアメリカで感染者が出始めた頃で、ニューヨークはあれよあれよという間に世界一の感染者数を記録する場所となってしまいました。私はただただ京都で無事を祈るばかりの日々を過ごしました。
 それから1年半。ワクチン接種も2回済ませ、京都市に接種証明も発行してもらいました。さらに遠くも近くも見えづらくて困っていた白内障の手術をやっと8月下旬に済ませ、いつか渡航できる日を待ちました。
 今回は困難を極めた日本出国からアメリカ入国までを中心に書こうと思います。

 ニューヨークに行こうと決断した決め手になったのは、昨年9月初め、「帰国後2週間の自粛期間を条件付で10日間に短縮する方向」と政府の発表があった事です。4日間は大きいのです。N Yに2週間は滞在したい。10月23日にどうしても外せない用事がある為、10月23日を自粛解除日にするには、10月22日が帰国翌日から10日目になる必要があります。逆算すると10月12日が帰国日です。娘の仕事の都合も聞いて、出発は9月28日に決めました。
 厄介なのは飛行機便をどこにするか、でした。帰国者の自粛には空港から公共交通機関を使ってはならない、という規定があります。タクシーもダメ、自家用車での迎えかレンタカーでなければハイヤーです。うちは車がないので、ハイヤーを頼むしかありません。となると、関西空港に戻って来る必要があります。これが難問でした。関空からアメリカへの便は軒並み廃止されていました。羽田や成田からは毎日のように飛んでいるのに、です。やっと見つけたのがアムステルダム経由のKLMでした。時間がかかるけれど背に腹は代えられず、「いつでも変更、返金します」という文言に励まされ、9月28日10時25分発の便をオンライン購入しました。
 次の問題は、飛行機に乗るには搭乗72時間前までに自前でのPCR検査を受けないといけない事でした。濃厚接触者や発熱など、症状がある場合は近くの病院の発熱外来にて自己負担なしの検査を受けられますが、海外渡航の為というのは不可です。それで厚労省のHPから探し出し、一番近いのが京都駅前にある「京都トラベルクリニック」という名前の所でした。医師による陰性証明を出してもらうには仕方のない事でした。検査代は多くの検査機関が3万円以上していましたが、ここは税込15000円と良心的でした。それで、出発前日の27日午前中に検査に行くと、受付二人、奥の部屋に防護服を着た看護師が一人いるだけでした。夕方7時にメールで医師の署名の入った陰性証明が届き、プリントアウトしました。これで準備万端です。

 28日は6時15分のJRはるかにて関空へ。いつもなら荷物が大きいときはMKタクシーのスカイゲートシャトルという乗合タクシーを利用していますが、コロナのせいでとっくに運休です。早々に関空到着、空港にはほとんど人がいません。KLMのチェックインカウンターへ。
 「ビザをお持ちですか?」
 「いいえ。ESTA(電子渡航認証システム、米国国土安全保障省により義務化されているもので、ビザを免除する代わりのもの)申請で許可されています」と念のためプリントアウトしたものを提示しましたが、なんと
 「ただいま、アメリカはヨーロッパからの入国ができません。」
 「1時間50分のトランジットでオランダには入国しませんが。」
 「それでもダメです」
 絶句!!顔面蒼白とはこの事です。私は事態を理解し、すぐ頭を切り替えました。「日本から直行なら入国できる」と聞き、羽田か成田乗り継ぎJALかANAを探すか?しかし帰国便は日本に到着した空港から関空へ飛ぶことは公共交通機関利用となるから不可能。そうか「このKLMの復路のチケットを使えばいいでしょうか?」と質問すると、
「往復を別の飛行機会社にするととてもお高くなります。そして当日買うチケットもお高いです。」
そんなこと言っていられない。スーツケースを引いて、京都の自宅に戻るのだけはイヤでしたから必死でした。その後、上司らしき人がポツリと、
「大韓航空がニューヨークJFK空港に飛んでいますが、明日です。」
「韓国からはアメリカに入国できるのですか?」「はい。」
その人は「まず、KLMに今日の便はキャンセルすると伝え、払い戻しをお願いして、その確約を取ってから、次の便を探してください。」とKLMの東京支社の電話番号を書いたメモを渡してくれました。会社の開く9時まで小一時間もありました。その間、座ってスマホを駆使し、今日関空(KIX)からJFKに飛ぶ飛行機を探しました。ようやく一つ見つけたのが韓国の「アシアナ航空」でした。仁川(インチョン)で一泊しないといけませんが、11時20分に関空を出発します。
 9時ぴったりにKLMに電話して、事情を話し、キャンセルする旨を言うと、「次のフライトに使えるバウチャーに変更する、もし使わなければ返金する。」と金額まで言ってくれたので、ほっとしました。
 ちょうどアシアナ航空のチェックイン開始の放送があり、そのカウンターに行き、「今から乗りたい。」と言うと、すぐ横の窓口でチケットを売ってくれました。行きも帰りも仁川に一泊しないといけないスケジュールとなり、ニューヨーク滞在が2日も減ってガックリしましたが、KLMより少しお安かったので、ホテル代の足しになると思いました。
 やっとチェックインできて、スーツケースを預けることができました。やれやれです。娘が空港に迎えにくることになっていますから、現地時間当日28日の夜到着のはずが、翌日昼になることをLINEで伝えました。

 1時間半ほどのフライトで仁川空港へ着陸。閑散としただだっ広い空港はあちこち閉まっていて、1つだけあるホテルを見つけました。一泊料金がかなり高いので「もっと安い部屋はないか?」というと「これは24時間滞在料金で、12時間滞在ならもっと安い」と言われ、19時から翌朝7時までの12時間としました。
 翌朝7時にホテルを出ると、ESTAよりメールが入って、「あなたのESTA のステイタスは変更されました」とあります。一体どういうこと?自分のパスポート番号、その他何度打ち込んでも昨日まであった許可の画面が出てきません。パスポート番号は暗記してしまいました。とにかく遠い搭乗口までひたすら歩き、そこで又スマホに打ち込んでいると「ホリカワ?」とアシアナ航空の職員らしき女性に声を掛けられました。
「あなたはアムステルダムにいるはずだが」
関空でチェックインもしていないのに、なぜか私はヨーロッパにいることになっていて、JFK行きの飛行機に乗せられないというのです。「どうしてここにいるのか?」「どこから来たのか?」「私のパスポートを見せろ」と言うから渡すと、それは2年前に更新してどこにも渡航していませんから全くのサラ、スタンプひとつ押してないのです。結局「この14日間、日本にいました」と何度も確認して、アメリカの機関にも電話してくれて、やっとOKになりました。韓国人のお姉さんは片言の英語でゆっくり話してくれましたから助かりましたが、これがアメリカ人にまくし立てられていたら、とてもじゃないが受け答えできなかったでしょう。後から思うと、このやり取りをしていた時刻はKLMに乗っていたとすると、JFKに到着していた頃でした。

 それから14時間以上のフライトでJFKに着いてからも案の定、入国検査の所で別室に連れて行かれました。まさか強制送還なんてないよね、とドキドキしながら自分の番が来るのを待ちました。名前を呼ばれ、パスポートを取り上げられたまま同じ質問の繰り返し。ワクチン証明、PCR検査陰性証明なんてチラと見たかどうか、ただ「ヨーロッパに行ってないか?」だけの確認でした。
 やっと解放されて、出口のドアを出るとすぐの到着ロビーに娘の姿があり、1年半会えなかったことより、この40時間以上の長さを耐えて会えた喜びの方が大きかったです。この時、「人生初のアメリカだがもう欲張らないで、やることは一日一つ、心静かに過ごそう」と決めました。そしてつくづく、連れ合いが一緒でなくて本当によかったと思いました。

 生まれて初めて来たニューヨーク。娘と一緒に鉄道でマンハッタンに向かいました。その時見た真っ青な空!まるで浜松の空のように青かったのです。さっきの謙虚な気持ちは一瞬で吹っ飛び、さあニューヨークを楽しもうとワクワクしてきました。
 今回は3日目に行ったベーグル屋さんについて書きます。基本は娘のところで料理していましたからあまり外食はしていません。徒歩で行けるところに、有名なベーグル屋「Ess-a-bagel(エッサベーグル)」3番街店がありました。いつも列になっているそうですが、その日は店の外までは列がなく、中に入ったら蛇行する列でした。この画像は後日(2022.1.20)娘が撮ったものです。順番が来たら、ベーグルの種類を選び、中に挟む物を決めて、サンドイッチにしてもらうのです。まあベーグルも挟む具も沢山あり、目移りしそうでした。クリームチーズが売りのようですが、それも色々あります。娘が「お勧めはスモークドサーモンとの組み合わせ」と言って、クリームチーズと一緒に手早く決めて注文してくれました。2種類を受け取ると左のレジで支払いをします。コロナの前は奥の方にイートインスペースがあったそうですが、撤去されていました。店には主(ヌシ)のようなおばあさんがデンと座っていて店内を見回し差配している感じでした。
 ベーグルはニューヨークで有名になったと聞いていましたが、東欧系ユダヤ人がもたらしたようです。このエッサベーグルは1976年創業、元はオーストリアのベーカリーだったそうです。ベーグルは成形してから湯がくのですね。3番目の画像奥では大釜で茹でているのが見えます。その後、オーブンで焼きます。それで中はもっちりとキメが細かくずっしりしていて、外側はかなり噛みごたえがあります。アメリカサイズで大きいし、二人で半分ずつのつもりでしたが、とても食べきれませんでした。最後の画像は、ベーグルがEverythingと言って、胡麻、ひまわりの種、ケシの実、ガーリック等全てがくっ付いたもの。中身は"A Signature Favorite"といい、スモークドサーモン、クリームチーズ、トマト、レタス、玉ねぎです。もう一つの画像はありませんが、プレーンのベーグルに"A New York Favorite"と言って、カリカリのベーコン、トマト、レタス、アボガドを挟んでもらいました。どちらも本当に美味しい組み合わせでした。

 次回は美術館巡りを堪能したことと、帰国後の自粛生活が厳しかったことについて書きたいと思います。

【参考サイト

2022.1.22 高25回 堀川佐江子記)