第69回:二十四節気の展覧会と北村武資さんの着物、そして栗きんとん

 前回の第68回から8ヶ月も経ってしまいました。未知のウイルスがあれよあれよという間に世界を席巻し、人と人が集うことを自粛せねばならない事態が続きました。楽しみにしていたイベント、コンサート、美術展が中止・延期となり、それのみならず、本来なら社会に向いて開かれているはずの映画館、図書館も扉を閉ざすという未曾有の状況に陥りました。行きたかった旅行も断念せざるを得ず、会いたい家族とも会えず、でした。ただ、いいこともあり、オンラインの恩恵で、ネット配信の上質な映像を無料で堪能できました。

 夏になって、音楽会は席数を半分にして、美術館は予約したり、入場制限をしたりして開催されるようになりました。涼しくなった昨日、京都市岡崎にある京都国立近代美術館の再開して2つ目となる展覧会「京(みやこ)のくらし――二十四節気を愉しむ」に行って来ました。
 季節の移ろいを知る目安として、日本には二十四節気という季節の区分があります。これは農作とも深く関わっています。大寒、立春、啓蟄、等よく目にしますが、私はよく分かっていないのでこの際、二十四節気について調べてみました。

 右の画像はとても分かり易いので「暮らし歳時記」のサイトよりお借りいたしました。
 簡単に言ってしまうと、節気とは1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれ6つに分けたものです。もう少し詳しく言うと、二十四節気は太陽の動きをもとにしています。太陽が移動する天球上の道を黄道と言い、黄道を24等分したものが二十四節気です。黄道を夏至と冬至の「二至」で2等分、さらに春分と秋分の「二分」で4等分、それぞれの中間に立春、立夏、立秋、立冬の「四立」を入れて「八節」とする。「一節」は45日、これを15日ずつに3等分し「二十四節気」とします。

 会場の展示は立秋から始まり、すべて所蔵品の絵画、工芸品(陶芸・漆芸・染織等)で埋め尽くされていました。大雪の所に十五代樂吉左衛門の茶碗「看雪」、立春の所に秋野不矩さんの「残雪」、晴明の所に藤田嗣治の「アネモネ」がありました。一番うれしかったのは人間国宝・北村武資さんの織った経錦(たてにしき)着物「笹の春」が見られた事でした。穀雨のところに展示されていました。柔らかな緑色でうっとりする美しさでした。
 北村武資さんとは2011年に同じ京都国立近代美術館において「『織』を極める 人間国宝 北村武資」展をされた西陣の製織家です。私はそのとき初めて知り、織物の美しさに圧倒されたのです。古代織の再現のみならず、ご自身が新たに作り出す織物も数知れずあります。透けて輝く文様の「羅」と、羅と同じ紋織りで密度の高いしっかりとした「経錦」の2つで重要無形文化財保持者つまり人間国宝となっています。それ以来、毎年秋に高島屋で催される「日本伝統工芸展」に新作が1点出展されるのを楽しみにしています。去年は北村さんが作品解説をされると広報されていたのでその日に出かけ、自作を含めて1時間にわたりお話しされるのをすぐ近くで拝聴しました。終了後「近代美術館で個展を拝見してとても感動しました」と一言ご挨拶申し上げました。少し驚いた感じで「ありがとうございます」と答えてくださいました。
 今は二十四節気の「白露」です。会場には上村松園の「虹を見る」が展示されていました。何度か目にした屏風絵です。パネルの説明書に「白露(9月8日頃)には和菓子屋さんで栗きんとんや栗蒸し羊羹が出回ります」と書かれているのを読み、実は帰りに近くの「平安殿」に寄り、栗きんとんを買うつもりだったことを見透かされているようで、笑えました。

 平安神宮の大鳥居の南に広い店舗を構える平安殿は昭和26(1951)年創業、店名にもなっている代表銘菓「平安殿」は柚子の香り高い白餡のお饅頭です。でも私は生菓子を求めずにはいられません。この時期なんと言っても栗きんとんです。中に丸ごと1粒栗が入っていて、周りの栗餡のそぼろが非常に細かく繊細なのです。100%栗を堪能する逸品です。自宅で写真を撮ろうとしたところ、柔らかくて上手くいきませんでしたので、お店のHPより画像を拝借いたしました。広い間口の店舗もそうです。もう一つ平安殿でこの時期の楽しみは栗薯蕷饅頭です。これも中に一粒栗が入っていて、周りは栗の入った薯蕷です。しっとりした皮と中の栗が口の中で絶妙に溶け合います。

 自粛自粛と言われていた3月、映画好きの私は近くの山科図書館を通して、醍醐図書館や右京図書館が所蔵しているDVDを借りまくる事を思いつき、せっせと実行しました。そのうち、4月半ばから完全休館になってしまい、がっかりしましたが、5月中旬に予約した物を取りに行くことは可能になったので、オンラインで予約を再開、いまだに続けています。1日に2本はザラでたまに3本見て忙しいことです。今やDVDの時代ではなくNe○flixやAmazon プラ○ム等会員になって見放題にしたらいいのですが、図書館はタダです。
 オンライン無料配信の恩恵と書きましたが、舞台芸術をされている方々は突然失業状態になられた訳で申し訳ないので、ささやかな寄付をした上で、楽しませていただいております。一番の収穫はニューヨークにあるメトロポリタン歌劇場が3月に閉鎖になった直後から、毎日日替わりで過去の映像を配信してくれていることです。Nightly Met Opera Streamsといいます。これほど贅沢なことはありません。超が付く一流の歌手ばかりです。歌がうまい、曲が美しい。オペラの内容は酷い話が多く、そうなるか?というものもあるのですが(歌舞伎もそうですね)、音楽が美しいから英語の字幕を必死で読むのはやめて、ずっと流しています。気に入ったものは日に3、4回聴きます。
 またパソコンにスピーカーを繋ぐと良い音で聴けることを息子が教えてくれたのでBluetoothで飛ばして聴いています。もう一つ、若い友人が遊びに来られた時、HDMIのケーブルをテレビに繋いだら大画面で見られると伝授してくれました。メトロポリタン歌劇場の再開は12月31日とのことですので、12月30日まで堪能しようと思います。

 ところで、今回の近代美術館では、北村武資さんの着物の柄をよく見ようと少し近づいた途端、「お客様」と言って係員が飛んで来ました。実は再開してすぐの展覧会「ポーランドの映画ポスター」展でも、ポスターが目の位置にあり説明書がその下にあるため、腰を90度曲げないと読むことができませんでした。若者もそうやって読んでいました。それなのに私には係員が「お客様、お帽子が当たります」。そんな訳ないのに。パラパラしか観覧者がいないから仕事をしているつもりなのか、全く。

​【参考文献】

  • 「京のくらし―二十四節気を愉しむ」チラシ

【参考サイト

(2020.9.18 高25回 堀川佐江子記)