第51回:ドイツのクリスマス菓子シュトレン

 いつの頃からでしょうか、日本でもクリスマスの1ヶ月位前からケーキ屋さんや大きなパン屋さんで、ドイツのクリスマス菓子シュトレン(STOLLEN)が売られるようになりました。白い粉砂糖に覆われたずっしりとしたケーキです。
 わが家ではここ4年ほど、ドイツに住む親しい人が送ってくれるシュトレンがことのほか美味しいので、毎年この時期に拙宅を訪れるお客さまにもお出ししています。最初500gのが送られて来ましたが、去年からは1㎏のものが届くようになりました。

 シュトレンという名前は「坑道」や「地下道」を意味し、トンネルの形に似ているからこの名がついたといわれています。真っ白でやわらかな粉砂糖に覆われた外観は、幼子イエスを包むおくるみに見立てられています。
 作り方は、酵母の入った生地にバター、ラム酒に漬けたサルタナレーズン・レモンピール・オレンジピール・クランベリーとナッツ類をきざんだものを混ぜ込んで焼き上げ、表面に溶かしバターをたっぷり塗って、その上に粉砂糖をかけます。中にはマジパン(アーモンドを挽いて、シロップを煮詰めたものと混ぜペースト状にしたもの。固めの白あんのような感じ)が入ったものもあります。
 焼き上がってから2週間ほど熟成させて、生地とフルーツ、ナッツが馴染んでから、店頭に並びます。そして、クリスマスを待つアドヴェント(待降節、イエス・キリストの降誕を待ち望む期間のこと)の間、薄く切って少しずつ頂くと、より熟成した味わいとなり日に日に美味しくなるのです。

 シュトレンはザクセン州ドレスデンが発祥と言われています。これには諸説あり、1329年ドレスデンの西にあるナウムブルク司教へのクリスマスの贈り物が最古の記録とされています。今日に伝わるシュトレンが完成した後、ザクセン公国では、毎年クリスマスに宮廷に献上するのが習慣となったそうです。1730年、アウグスト強王は24,000人を招いたパーティ-の最後に出す1.8トンものシュトレンを注文。この巨大なシュトレンは8日間かけて焼かれ、1.6メートルものナイフで客の前でさばかれたと言われています。

 この出来事を記念して、ドレスデンではクリスマス時期の第二アドヴェント前の土曜日、シュトレン祭が開催されます。2017年は12月9日(土)でした。小山のようなシュトレンが馬車に乗せられて、練り歩き、クリスマスマーケットの会場で切り分けられるのです。
 現在では、ドレスデンシュトレンは商標登録されており、ビール純粋令と同様、材料の分量が規定されているそうです。ドレスデンにある150軒ものパン屋は門外不出のレシピを代々伝授して、味を競っているそうです。

 10年位前に、京都の友人で新婚時代にベルリンに住んでいたという方が、手作りのシュトレンを3年くらい続けてプレゼントしてくれたことがありました。11月23日頃、30本も焼くのが恒例だったようです。その時、必ず言われた言葉が「クリスマスに食べてな。すぐ食べたらあかんで?。」でした。忠実に守っていましたが、3年目に「すぐ食べたらどうなるの?」と聞くと、しばらく沈黙した後、「堅くて食べられへん。」本当にそうなのか試す勇気はありませんでしたから、素直にクリスマスの日に頂きました。
 わが家では子ども達が小さかった頃、生クリームが苦手な子がいたこともあり、クリスマスのデコレーションケーキを食べる習慣がありませんでした。ここ数年、キリスト教に興味を持って、たまに旧約聖書を読むようになったこともあり、ドイツから届くシュトレンを有難く思い、さらに日本製のシュトレンも毎年違うお店で購入して、少しずつ頂く楽しみを覚えました。そのドイツ在住の方はすでにドイツを引き払い、来年は日本に来られるので、今度は日本のシュトレンを堪能しようと思います。