第45回:お伊勢さん菓子博2017と白い赤福

 2017年4月21日から5月14日まで、第27回全国菓子大博覧会・三重が「お伊勢さん菓子博2017」として三重県営アリーナ及びその周辺で開催中です。日本最大級のお菓子の祭典ということで、ゴールデンウィークの谷間、5月1日に行って来ました。

 この全国菓子大博覧会は明治44(1911)年、第1回帝国菓子飴大品評会として始まった100年以上の歴史ある博覧会です。全国より集められたお菓子や菓匠が制作した工芸菓子の中で、優秀な品には「名誉総裁賞」「厚生労働大臣賞」「外務大臣賞」等が贈られます。約4年に1度全国各地で行われています。前回第26回は2012年広島で、第25回は2008年姫路で開催されました。静岡は第19回で1977年に開かれたそうです。全く知りませんでした。ちなみに今回は浜松が誇るうなぎパイの高級バージョン、真夜中のお菓子「うなぎパイV.S.O.P.」が「外務大臣賞」を受賞しました。同じく春華堂の「田舎みそまん」がパッケージを変えて「直虎みそまん」として並んで展示されていました。

 私はこどもの頃からお菓子の包装に第○回菓子大博覧会○○賞受賞という漢字が並ぶ文字をよく見つけて、そんな大博覧会があるのか、と思っていました。それで今回、1970年大阪万博(高校1年生でした)以来の博覧会に行って来た訳です。

 私の一番の目当ては、白小豆を使った白あんの赤福と普通のこし餡の赤福を1粒ずつ入れ、紅白に見立てた「祝盆」を頂くことでした。これは、博覧会場の「おかげ茶屋」でのみ売られるため、開門と同時に整理券を求めて殺到する事態となりました。それで三重県警から指導が入り、4月29日から販売方法が変わりました。入場時、希望者に抽選券を配布、めくると「赤福餅 祝盆(210円)ご購入券」・「復刻版赤福餅(12個入り1100円)ご購入券」「大変申し訳ありません ごゆっくりお楽しみください」のどれかが出てきます。私は「復刻版」が当たり、同行した娘はハズレでした。白い赤福を食べられないとは、来た意味がない。ここで諦める訳にはいきません。すると、目の前に年配の女性二人と男性一人の3人組がいました。全員ハズレたというグループの声も聞こえるのに、女性二人は「祝盆」、男性は「復刻版」が当たっていました。一人のおばあさんは当惑した顔で「これ、210円出して買うんやろ?」と言っています。すかざず私は「あの、それ210円で買いましょうか?」「いいよ、食べられんし、あげるよ」やった~。なんていい人。即、おかげ茶屋の列に並び、15分くらいで買うことができました。娘は「復刻版」の列に付いて1箱購入して、私と合流。半分コして有難く頂戴しました。さすが白小豆、上品なさらりとした食感で、甘みも薄く大変おいしゅうございました。

 復刻版に並んだ娘から聞いた話では、隣の人が「白小豆なんてある訳ないだろ、インゲンさ。復刻版は12個1100円。こっちの方がお得だわ」と言っていたそうです。「復刻版赤福餅」というのは江戸時代後期から明治時代まで作られていた黒砂糖を使用した赤福のことです。明治44(1911)年、明治天皇のお后である昭憲皇太后様からご参宮の折に赤福のご用命を賜り、思い切って当時希少だった白砂糖を使用して作った赤福を献上したところ、大変お喜びいただいたそうです。それ以降、白砂糖を使った赤福を「ほまれの赤福」と名付け、市販しました。これが現在売られている赤福です。

 帰宅後頂いた黒砂糖の赤福はかなり濃厚な味でした。一方、白小豆を使った白あんは本当に100%白小豆なのか知りたくなり、赤福のお客様相談室に電話して聞いてみました。「お召し上がり専用なので手元に資料がないから調べてからかけ直します」とのことで、折り返し電話がありました。そうしたら白小豆だけで手亡等インゲン豆は使っていませんでした。希少な白小豆を使って、お店で頂く普通の赤福2個入りと同じお値段では厳しいのでは?とさらに聞いてみました。「そういった理由もあり、1日2000(平日)から3000(土日祭日)個しかご提供できないのです」とのお答えでした。黒糖の復刻版は1日4000(平日)から6000(土日祭日)箱を販売しますから当たる確率も倍あるわけです。

 祝盆を食べ終えた後、私たちの隣に座ったご夫妻は愛知県から来られたとのことでした。車で朝5時に出発、7時に到着して、開場まで3時間待ったが、お二人とも抽選に外れ、がっかりしていました。私たちの事情はとても言えませんでした。

 その後、アリーナ内に展示している工芸菓子の数々を見ました。工芸菓子とはすべて食べられる素材で、あるテーマを写実的・立体的に表現した芸術作品のことです。和菓子は花鳥風月などの自然を、洋菓子は人物や建物・造形物などを創作しています。本物と見間違うほどの精巧さ、美しさです。その中で、一番目を見張ったのはゴッホのひまわりの絵でした。ひまわりのみならず、チューブの絵の具や筆までリアルに作られていて驚きました。

 もう一つよかったのは、江戸時代の庶民の旅、お伊勢参りの展示です。一生に一度の願いだったこと、何年もお金を貯めて出かけたこと。当時のお菓子事情として、赤福だけでなく桑名の安永餅、四日市笹井屋のなが餅等、沢山の餅菓子が街道で広く親しまれ、今に続いていることを面白く拝見しました。一番上の写真はすべてお菓子で作られた、お伊勢参りの様子です。

 博覧会は十分堪能しましたので、バスに15分乗って、神宮の内宮へ行きました。念のため申し添えますと、「神宮」が正式名称で、伊勢神宮は通称です。手水舎で手水を使った後、すぐ先の御手洗場に下りて、五十鈴川に手を浸し、清々しい気分で正宮に向かいました。そこで、白あんの赤福を食べられたことを感謝し、日頃の和菓子に対する飽くなき欲望を反省して正宮を後にしました。その途端、お賽銭を入れてはいけないという神宮の決まりをおかしたことに気が付きました。神宮は「私幣禁断」といって、天皇陛下以外のお供えが許されないということを一昨年の式年遷宮の折、にわか勉強で知りました。昨年の参拝の時は守ったのですが、1年経ってすっかり忘れていました。以前は白い布が敷いてあるだけでしたが、何故か今回お賽銭箱が置いてあったのです。よい気分で随分とはずんだお賽銭をちょっぴり惜しいと思ってしまった私は、禊ぎのために又お参りに行かなければなりません。

【参考文献】

  • お伊勢さん菓子博2017 パンフレット

【参考サイト】

(2017.5.6 高25回 堀川佐江子記)