続編その18:人類の前に横たわる問題と未来への希望

幡鎌さち江(24回
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 しらはぎ会の皆様、お久しぶりでございます。

 2021年、新しい年が始まりましたが、世界規模での新型コロナの感染拡大、そして我が国でも、関東・関西などをはじめとして緊急事態宣言が発令されました。また、明治時代すでに丘浅次郎が「自然の驚異と環境破壊」などの問題を警告していたように、年々、自然災害の規模も拡大してまいりました。そして、世界中で起こっている人権問題、国と国との争い、貧富の格差、人種・民族の対立、更に深刻な「核」の問題など。
 そして、それら全てにおいて感じることは、「人類の驕り(おごり)と愚かさ」が浮き彫りになってきたことです。
 私たちは、今一度、立ち止まって、「地球の歴史」、「生物の進化の過程の中での人間の位置」を深く考え、一人一人が何をなすべきなのかを考える必要性に迫られているのではないでしょうか。

 大正10年(1921年)、丘浅次郎は「我らの哲学」という一文を書いていますが、その一部を御紹介しましょう。
 「今の世界には人間を相手として対等の競争をなしうる動物は一種類もない。かくのごとく人間が絶対に優勢な位地を占めえたのは何によるかというに、これは脳の発達と団結の力とに基づくことである。人間と他の動物との身体を比較して見るに、爪でも牙でも肺でも胃でも人間より数等まさった動物はいくらでもいる。しかし脳髄にいたっては人間だけが……(中略)また、脳がよく発達し、手が充分に働いても、一人一人が離れて生活していたならば、強敵に打ち勝つ望みは決してなかったのであろう。もっとも発達した今日の人間でも一人ずつに離せば存外弱いもので、それが有力に働きうるのは全く多数の者が力をあわすからである。……(中略)
 ……団結性の程度を標準として、人類が今日までに通過しきたった道を図式に画けば、あたかもパラボラのごとき形となり、始め急な上り坂からだんだん傾斜がゆるやかになり、しばらく絶頂にあるが、後には少しずつ下り坂に変じ、しかもその勾配(こうばい)は進めば進むほど急になるのではないかと思われる。……」

 さらに、明治42年(1909年)の「人類の将来」と題する丘の一文に耳を傾けると、
 「人類が社会を形造って生存している以上は、互いに力をあわせ相助けることが何よりも大切であるが、生活難の加わるとともに人心が堕落すると、このことが次第に薄らいでゆく。……(中略)……したがって何ごとをするにもただ自分一身の利害損得から割り出して計画せざるをえぬようになってしまう。……(中略)……かくなれば世は私欲と法律との競争となり、私欲は巧みに法律の空隙をくぐり、法網にふれずして……(中略)……これを防ぐためにはさらに密なる新法律が造られ、……(中略)錠前が改良せられるごとに盗賊の錠前破りも精巧になるごとくに、法律が密になれば、それだけこれをくぐる術も進歩し、私欲は相変わらずすべての方面に盛んに働き続けるであろう。
 各個人がことごとく私欲によって働く世の中になれば、協力一致を要する事業はもとよりよく行われる望みはない。……(中略)……たとえば団体の自治のごときも、元来は多数の人びとに適当と認められ選出された者が衆にかわって議員となるべきに、今後は私欲主義の跋扈(ばっこ)するにしたがい、その位置を利用して儲(もう)けようと思う者が、自分のほうから候補者と名乗って盛んに運動し、うるさく選挙者に迫り、あらゆる手段を取り、時には兇器(きょうき)を持ち出してまでも、他を排して自分が当選しようとつとめるに違いない。福沢氏がかつて『世界国尽し』の中に「政体ありて主君なく、天下は天下の天下なり」と謳(うと)うた。北米合衆国の人に言わせると、米国は共和政治という理想的の政体で、各個人は貧富上下の別なく、憲法によって平等に政治上の権利を与えられているというが、今日すでに上述のごときありさまに進んでおるゆえ、かりにニューヨーク市の住民になったと想像すると、自分の実際に有する政治上の権利は、ただ自分の好まぬ候補者を選むか、棄権するかの二途のうち、一つを随意に選びうるという権利のみに過ぎぬ。されば今後は協力一致を要する働きは漸々(ぜんぜん)困難になり、ついには不可能になるやもしれぬ。」

 本当に、いまさらながら丘浅次郎の慧眼(けいがん)には敬服いたします。
明治末期の世相が現代社会そのものであることに驚かされます。私欲主義に支配され、人心が堕落の一途をたどっていることは毎日のニュースで、皆様もお感じのことと思います。例えば、詐欺・コンピューターウィルスなど悪事を働く者の手口が大変巧妙になり、それを取り締まる法律との果てしない攻防。また、日本の政界の不祥事、アメリカ大統領選挙などの連日の報道。

 丘浅次郎の言うように、最近の世界の様相を眺めてみれば、「人類は、今、急勾配の下り坂を下っているのではないか」との危惧(きぐ)を、誰もが抱いているのではないでしょうか?
 人類は、今、世界規模での新型コロナ拡大で右往左往し、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)・フィジカル・ディスタンス(身体的距離)をとることを余儀なくされ、不要不急の外出を制限され、家庭内でさえも顔をマスクで覆い、見えないウィルスという敵を恐れて暮らす日々。人と人との関係が希薄になり、社会全体だけでなく家族の間ですら、団結力や信頼関係が失われていくのではないかという危機感を抱く毎日。

 しかしながら、人類はこの地球上に誕生してから、数多(あまた)の苦難を乗り越えて、不断の努力で叡智(えいち)を獲得し、現在に至る文明を築き上げてまいりました。
 必ずや、この度のコロナ危機は克服できると信じております。

(続く)

2021年1月20日大寒 記す

【参考文献】

  • 『進化と人生』下 丘浅次郎 著 昭和51年 講談社学術文庫
    収録論文 ・「我らの哲学」 ・「人類の将来」
 

(追伸)

1.北高の先輩、新制18回の神野志保子様(※旧姓・松島)が、曾祖父・松島十湖の生涯を大日本報徳社(※掛川市)の情報誌「報徳」に「松島十湖…奇人変人の痛快人生①~⑫」という題で文を書かれ、連載が始まります。第1回目を拝読いたしましたが、とても素晴らしく、今後の展開が楽しみです。

静岡新聞に掲載された記事

大日本報徳社の新年号の表紙(連載①)

2.丘浅次郎の従兄弟・山﨑覚次郎(※経済学者)の生家・掛川「松ケ岡」が、「国重要文化財」登録に向けて本格的保存修復工事が始まりました。尚、掛川二の丸美術館で2月6日(土)~3月14日(日)「松ケ岡・山﨑家ゆかりの遺品展」が開催されます。
浜松市の旧家・鷹森家(※竹山一族、掛川初代町長・山﨑千三郎の子孫)から掛川市へ寄贈された松ヶ岡ゆかりの美術工芸品などを中心に展示が行われます。御興味のある方は、是非、足をお運び頂けましたら幸いです。

掛川二の丸美術館HPより

静岡新聞に掲載された記事

3.浜松北高の同級生(※医師)の従兄弟が、来る2月7日(日)午後4時~テレビ東京系列の番組「第四弾特命池上彰ベンチャーズ」に出る予定です。「へその緒に含まれる細胞を使って再生医療、新型コロナなどの治療薬開発に着手」という内容です。

また、5月にも「ガイアの夜明け」にも出るとのこと。

日本経済新聞社の関連サイトより