食物繊維のパワー

山下典子(第24回卒、皮膚科医)

 年齢と共に食事に気を使うようになりました。きっかけは高血圧と高脂血症でした。今振り返れば外食やお惣菜の味つけに慣れて塩分、動物性脂肪、糖質も摂りすぎでした。最近、偶然、テレビで生の玉葱と長葱を美味しそうに頬張るチンパンジーを目にした時、犬には玉葱類は禁忌なのにチンパンジーは好物であること知り驚きました。動物によって違いがあるものの、人間は動物と違っていろいろな調理法や加工技術を手に入れ、その反面、調味料や保存料など種々の添加物に曝せれることとなりました。

 料理を美味しく食べたい、理想の食生活とは・・・。折しも2013年12月4日に和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、低脂肪で食物繊維が多いという観点から海外でも注目され、食物繊維についても近年いろいろな研究結果が出ています。

 一般的には塩分と動物性脂肪を減らしてアジ、イワシなどの魚も推奨されていますが、あまり知られていない(?)食物繊維の豆知識をまとめましたので健康管理に役立てていただければと思います。

1. 食物繊維の種類と効能

 食物繊維には水溶性と不溶性がありますが自然界では不溶性の方が多く占めます。名称は表1に示しました。

食物繊維の種類と効能

 不溶性食物繊維は胃や腸で水分を吸収して膨張して腸を刺激して蠕動運動を活発にし、便通を促進します。水溶性は粘着性により胃腸内をゆっくり移動するので、おなかがすきにくく、食べ過ぎを防ぎます。また糖質の吸収を緩やかにして食後血糖値の急激な上昇を抑えます。血圧上昇を抑制(Naの吸収を抑制)したり、胆汁酸やコレステロールを吸着して体外に排泄したりします。さらに両者ともに有害物質を排泄促進というデトックス効果もあるとされています。良い事づくしの印象がありますが、摂りすぎると下痢を引き起こし、必要なミネラル分(Ca、Na、Znなど)まで排泄されてしまいます。特に不溶性食物繊維を摂りすぎると未消化のまま腸管に滞まってかえって便秘が悪化してしまうようですので注意が必要です。

 近年、食物繊維は腸内細菌の善玉菌であるビフィズス菌の餌となることから腸内細菌叢のメインテナンスに重要であることが研究され整腸効果と共に癌発症を促す細菌の減少に繋がることがわかってきました。

2. 摂取量

 理想的なバランスは水溶性1対不溶性2。摂取量は一日の摂取カロリー1000kcalにつき10gが目安だそうです。日本人の食事摂取基準(2015年版)によると、成人男性なら1日20g以上、成人女性なら1日18g以上、70歳以上男性19g以上、女性17g以上とされています。ちなみに食物繊維は大腸内で発酵・分解されると水溶性食物繊維は1kcal/g、不溶性食物繊維は2kcal/gのエネルギーになります。

3. 食物繊維を多く含む食品

 一回に食べる摂取量をもとに食物繊維の含有量を計算して表2に示しました。不溶性食物繊維が多いのは雑穀、野菜、豆類、芋類、きのこ、水溶性食物繊維が多いのは海藻、果物、野菜ならオクラ・モロヘイア・牛蒡、蒟蒻、人工的に作られたオリゴ糖が知られています(表1参照)。主食は重要な食物繊維の摂取源になっていますが、玄米なら普通の茶碗1杯約100gに水溶性約0.2g、不溶性約1.2g含まれるのに対し、精白米は水溶性0g、不溶性0.3gしか含まれていません。食べ易いバナナは小1本(100g)当たり水溶性0.1g、不溶性1.0g含まれています。魚介類や肉類には食物繊維は含まれていません。

 最近では「果穀藻菜」を意識して食材を選び、特に豆腐、牛蒡、きのこ、蒟蒻を積極的に取り入れ、主食の白米に玄米を混ぜて炊くようにしています。寒天デザートも便通に良さそうです。但し糖質は控えめに。